皆様、はじめまして。
このRp.シリーズのブログ記事は、会員ブログにて公開しているシリーズです。
様々な症例を提示し、その後に著者の私見を紹介させていただいています。
なお、ブログ記事に登場する症例はすべて架空の症例になります。
(今回は、会員の方以外にもご覧いただく記事になりますので
症例提示から私見の紹介まで一度にまとめてあります。)

症例
68歳 男性
発熱と咽頭痛、倦怠感を訴え受診。
迅速検査の結果COVID-19陽性が判明しCOVID-19軽症と診断。
診察に当たった医師より重症化が予想されるため、
パキロビッドの投与を費用面含め提案し承諾いただいた。

身体所見
身長171cm 体重88㎏ 体温39.6℃
SpO2 96% 個別化eGFR 26mL/min 他検査値省略

既往歴
高血圧、脂質代謝異常症  薬剤/食物アレルギー歴なし
現在服用中の内服薬(下記以外外用、市販薬、健康食品等は無し)
バルサルタン錠(160)         1錠 1×朝食後
カルベジロール錠(20)         1錠 1×朝食後
アトルバスタチン錠(10)        1錠 1×夕食後
オメガ-3脂肪酸エチル粒状カプセル   2g 1×夕食後

喫煙癖 40歳まで40本/日 以降現在まで喫煙無し

ワクチン接種歴 無し

上記症例に対し、医師からパキロビッドの処方について意見を求められました。
皆様はどのように回答されますか?

ここから著者の私見を述べさせていただきます。(通常はある程度の日数が経過したのち投稿されます)


症例提示を見ると、複数の重症化リスクがあるコロナ感染患者さんですね。
その方へのパキロビッドの処方に対し、薬剤師としてのチェックを任された状態です。
著者の場合、パキロビッドパック600/300 投与前確認項目一覧表をもちいてチェックしていきます。
重症化リスクには複数該当。

合併症の項に
重度の腎機能障害のある患者(コルヒチンを投与中の患者を除く)
□重度(eGFR 30mL/min未満) 投与は推奨しません。臨床推奨用量は検討されていません。
とあり電子添文にも
重度の腎機能障害のある患者(コルヒチンを投与中の患者を除く)
投与は推奨しない。ニルマトレルビルの血中濃度が上昇するが、臨床推奨用量は検討されていない。
とあります。
当該患者さんは個別化eGFR 26mL/minであり、【投与は推奨されない】症例に該当します。
ではどうしたら良いのでしょうか。

パキロビッドの投与はあきらめるのか?
パキロビッド以外に自宅で治療可能な選択肢としてラゲブリオがあります。
しかし欧州における販売承認申請を取り下げの背景や
国立保健医療科学院【モルヌピラビル(ラゲブリオカプセル200mg)】 に関する公的分析の結果 報告書を
みると簡単にパキロビッドがだめならラゲブリオで、との選択をとるのは中々厳しいでしょう。

ではパキロビッドを投与できる道はないのか、となります。
リバプール大学の研究によれば軽症のCOVID-19患者で、eGFRが30mL/min未満または透析を受けている患者の臨床データでは、
パキロビッドの変更用量は忍容性が高く、良好な安全性プロファイルでSARS-CoV-2ウイルス量を効果的に抑制した
とありあます。
こちらのプロファイルに基づき
eGFRが30mL/min未満である当該患者さんには、
パキロビッド300をもちいて
ニルマトレルビル/リトナビルとして300/100mgを1日目に単回投与し、
その後150/100mgを2~5日目に1日1回投与
を提案したいと考えます。

次に併用薬の確認
バルサルタン錠(160) 1錠 1×朝食後 こちらは添付文書にも投与前確認項目一覧表にも記載がありません
なので併用は問題なし、、、でしょうか?
リバプール大学の主要なCOVID-19治療薬との相互作用にはパキロビッドとの併用で
「相互作用の可能性があり、用量の調節や厳重な監視が必要となる場合がある」
とされています。
そして今回は慎重な対応が求められる症例ということもあり念のため、
相互作用の報告のないオルメサルタン(40)1Tへの変更を提案します。
おなじく相互作用の報告がない薬剤としてテルミサルタンがあります。
バルサルタン160mgに対しテルミサルタン80mg位になると言われていますがその量では別の問題の可能性があるため
著者は選択肢にあげませんでした(この話題は今後取り上げていこうと考えています)

カルベジロール錠(20) 1錠 1×朝食後 こちらはいずれの資料でも相互作用が確認されていないので併用可と判断します。

アトルバスタチン錠(10) 1錠 1×夕食後
投与前確認項目一覧表では「本剤と、これらの薬剤を併用する場合には、注意してください。」
電子添文では
「これら薬剤の血中濃度が上昇するおそれがある。これら薬剤の副作用が発現しやすくなるおそれがあるため、
充分な観察を行いながら慎重に投与し、必要に応じて減量や休薬等の適切な措置を講ずること。」
とあります。
脂質代謝異常の治療薬ということもあり処方医と協議も必要になりますが、
今回は休薬を提案したいと考えます。

オメガ-3脂肪酸エチル粒状カプセル 2g 1×夕食後 こちらもいずれの資料でも相互作用が確認されていないので併用可と判断します。

そして代替薬服用と休薬の期間はパキロビッドの影響を加味して服用中の5日間+影響が残る3日間の合計8日間とする旨、提案します。

いかがだったでしょうか?
皆様の提案とは異なる部分もあったのではと思います。
もちろん著者は、この提案が絶対的な正解であるなどとは思ってもいません。
しかしながら、この提案に至るまでの過程には誇りと責任をもってあたっています。
電子添文では推奨されていない患者さんへの投与と、承認されたものと異なる用法用量を提案する。
これらの判断を下すには治療の必要性とエビデンスがなければなりません。
薬剤師には特にエビデンスの妥当性を判断する能力が求められます。
同時に本件のように電子添文から逸脱する薬物治療を推奨してもよいのか判断する
倫理観も併せて求めらるのではないでしょうか?

本稿が皆さんの日々の業務の足しに少しでもなれば幸いです。


本稿は出典や情報の内容についての正確性には万全を期しておりますが
作成時の情報や知見に基づき作成している点、
期せずして正確性に欠ける内容が記されている可能性、
それらの点にご留意いただきお読みいただくようお願いいたします。

参考文献等
・各薬剤電子添文/インタビューフォーム
・パキロビッドパック600/300 投与前確認項目一覧表
・国立保健医療科学院【モルヌピラビル(ラゲブリオカプセル200mg)】 に関する公的分析の結果 報告書
・The University of Liverpool COVID-19 Drug interactions.
https://covid19-druginteractions.org/
・J Antimicrob Chemother. 2020; 75(10):3084-6. DOI:10.1093/jac/dkaa253

カテゴリー: Rp.

1件のコメント

Rp.5 ARBの切替時にテルミサルタンを選択するか? – 薬剤師倫理学会 · 2024年7月14日 08:31

[…] 拙著ブログの一般開放されているブログの紹介の 『Rp.0 パキロビッドパック』はお読みいただいておりますでしょうか? 未読の方はぜひお読みください→https://www.j-pesg.org/pakiro/ […]

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